福祉工場で働くということ。障害者が/障害者と #17本の紹介『自立生活 楽し!!』

担当:鶴田雅英
事業課長代理
大田区生産活動支援施設連絡会(おおむすび連絡会)共同受注窓口

忘れられない話

 鶴田です。ここでは久しぶりです。大田福祉工場は、障害者の就労を実現することで、さまざまな意味での「自立・自律」をめざす場所だと思います。そして、そのベースには日常の生活があります。数年前に起きた、今でも忘れられない話があります。大田福祉工場のB型で働いていた仲間のことです。

 いわゆる8050(はちまるごおまる)問題でもあるのですが、その仲間の介助をしていたお母さんが怪我したのをきっかけに日常の介助が難しくなり、その仲間は、いままで行ったこともない東北地方の入所施設に行ってしまいました。私にはどうすることもできませんでした。私に出来たことは、相談支援の方などに、「なんとか家で住み続ける方法は探せないでしょうか」と話すことくらいでした。いまでは、大田区内にはグループホームも当時よりは増えたので、東北の施設に入所するケースは減っているかもしれませんが、なくなったわけではなさそうです。本人がそのことを望んでそうするのであれば、それを否定するわけではありませんが、それしか選択肢がないという状況は変えなければならないはずです。

そんなことを思い出させてくれた本

そんなことを思い出させてくれた本があったので、紹介します。

自立生活は楽しいブックカバー

このタイトルの通り、ダウン症の佐々木元治さんが自立生活を始めて、楽しんでいる様子が書かれた本です。母親と支援者の文章と介助ノート、そして介助者へのアンケートなどを通して、その生活の準備の様子や、生活の楽しさが浮かび上がります。133頁の薄いブックレット風の本で、平易な文章で書かれていて、とてもわかりやすいです。

 この本の編著者の2名は母親と支援者です。母親は自分がなるべく前に出ないことを意識しているようでもあります(想像です)が、この生活を実現させた背景に彼女の存在は大きいです。ただ、知的障害のある子どもが一人暮らしを始めるためには親がひっぱる部分がないと難しいのも現実だと思います。そして、何よりもこの本の魅力は本人がこの暮らしを楽しんでいることがとてもよくわかること。こんな本が待たれていたと思います。 京都にある自立生活センター、JCILが支援して実現した自立生活で、もう一人の編著者はJCILの廣川淳平さん。

一人暮らしのきっかけは23年前

元治さんは12歳の時、一人暮らしを始めたお姉さんの部屋を見に行ったそうです。その時、母親が何気なく本人に聞いたのが以下。

「一人暮らししたい?」

 そこで彼は母親の予想を裏切って大きくうなずいた、とのこと。そういう見えやすいモデルがあることも大切なのだと思います。そして、そこから実現まで23年、かかっています。時代が動き、人々の意識や制度や仕組みが変わったことで、実現した自立生活だと言うこともできそうです。

 夕方から夜の支援さえあれば、一人暮らしが可能だった元治さん。こんな感じの支援、あるいは毎日ではなくでも週に何回かの支援があれば十分一人暮らし出来るのに、それが提案されず、グループホームなどで暮らしている人が多いと感じています。同時にGHや入所施設で断られた経験があるような「行動障害」のある方の一人暮らしも日本のいくつかの場所で始まっています。

 「自立生活援助」という仕組みが出来て、動き始めていますが実効性を確認するのはこれからになりそうです。 元治さんが一人暮らしを楽しんでいる様子は、ぜひ、この本を読んでほしいです。そこがこの本のいい所なのですが、以下は課題と感じたことについて書きます。

自立生活の介助者の声

この本に、母親から介助者に向けて、二度にわたって実施した ざっくりした設問のアンケートが掲載されています。若い男性ヘルパーたちがこんな風な思いを抱えて、支援の現場に入っているのかといういくつかの気づきをもらいました。たとえば、28歳のヘルパー中村亮太さんが「介護を仕事として思うこと」という設問にこんな風に答えています。

介助を続けていくために必要なことは、一人ひとりの介助者に余裕をもたせることだと思います。

余裕があればいろいろなことができます。介助者不足で働きすぎる、疲れていて余裕がなくなってくると、介助がつらくなっていきます。介助は大切な仕事なのだから、介助者の給与と待遇をアップして、介助者の人数を増やしていくことが必要だろうと思います。

アンケートのこの設問に7名中、約半数の介助者が給与などの労働条件に触れて、額の少なさや不安定さについて書いています。編者の廣川さんは国から支給される介護報酬の低さにも言及します。どうすれば、介助者の労働条件が改善されるのか、これは大切なテーマとして考えられなければならない課題です。

おわりに

 126頁あたりに記載されている、一人暮らしの選択に悩んだとき一人で悩まずにいろんな人に相談するというのは、重要な話だと思うのです。しかし、知的障害者の一人暮らしの相談に乗れるところは全国的にまだまだ少ない現実もあります。行政のワーカーが重度の知的障害者が一人暮らし出来ることを知らない例も多そうです。知的障害者の一人暮らしについて相談できる窓口を充実させること、全国につながる場所ができることも、これからの重要な課題だと思います。  気になった点をあえてあげれば、「何から始めればいいのか」に記載されている6つのステップの話です。ここでは最初に相談する場所として福祉事務所があげられていますが、前に書いたように福祉事務所を説得するようなことも必要な現状があります。また、相談支援も選ばないとヤバいところは多いです。まず問われているのは一人暮らしについて相談できる相手の確保。その可能性を広げていきたいと思っています。


この本を出している解放出版のサイトでの紹介は

https://www.kaihou-s.com/book/b582566.html

また、「知的障害のある人の自立生活について考える会」というグループができました。

https://jirituseikatu.jimdofree.com/

ホームページはまだ建設中で読みにくい部分もありますが、新しい情報はフェイスブックにも掲載されています。

https://www.facebook.com/jirituseikatu/

興味のある方は、のぞいてみてください。
(鶴田もこのグループに個人的に関わっています)